太宰治の本、読んだことがありますか?
もし、彼の本を読んだ人なら、太宰治がどんな人だったのか、知りたいと思うはずです。映画化などもされていますが、太宰治に直接会ったことのある人の話は、なかなか聞けるものではないもの!
今日の1冊は、櫻井秀勲先生の『太宰治との奇跡の四日間』です。
櫻井秀勲先生は、松本清張さんの担当編集者であり、女性自身の編集長として、伝説の編集長と言われた方。なんと、80歳を超えてから出版社を立ち上げるなど、90をすぎた今でも、現役バリバリで働いていらっしゃる、とんでもないバイタリティーの持ち主。
昭和23年6月、太宰治は入水自殺しています。
戦後まもなくということもあり、そこまで大きなニュースにはならなかったらしい。今と違い、テレビもネットもない時代、新聞くらいしか情報を得る手段はなかったことを考えると、さほど不思議でもなかったと思います。
櫻井先生は、昭和21年12月に、病気の療養で芦ノ湯温泉の1週間ほど滞在したそうです。当時の温泉旅館は、今と違って非常に小さく、櫻井先生のほかは、客は1組だけ。温泉に浸かっていると、その男性客から「きみは毎日一人で、温泉に入っているけど、一体何をやっているんだね?」と声をかけられたそうです。
その後、1日数時間、彼の部屋で時間を過ごすことになったのだが、その男性は、当時中学生だった櫻井先生の話を、興味をもって聞いていたというのです。結局、4日間そんなことが続いたそうですが、その男性の名前を聞くことはなかったといいます。ただ、部屋に原稿用紙の束があったことから、何かものを書く仕事をする人なのだろうという予想はついたとのこと。そして、最終日に1つだけ、アドバイスしてくれたそうです。
「きみはまだ、社会にどんな仕事や会社があるか、知らないだろうが、出版社という会社があるのだ。もし会社に入るという時期が来て、どの仕事にしようかと迷ったら、出版社を選んではどうか?出版社と覚えておきなさい。」
そして、このアドバイスが櫻井先生の人生を大きく変えることに。
その後、櫻井先生は出版社に入ることになるのだが、この温泉で出会った男性のことを様々な人に聞いたり、写真を見たりしたことで、その男性が太宰治だったことが判明し
ていきます。そのことが、後に三島由紀夫、川端康成との出会いに繋がっていくとは、ご本人も想像もしていなかった奇跡のような話。
太宰治の写真を見たことがないなんて、と思う人もいるかもしれないが、当時の写真技術は今想像もできないくらい低く、また戦時中ということで新聞に掲載される写真の印刷具合も、かなり悪かったそうです。それに、中学生当時の櫻井先生は、太宰の本を読んだこともなく、写真も見たことがなかったというで、温泉の人が太宰だと全くわからなくても当然だったでしょう。
「人との出会いで人生は変わる」というのは聞いたことがありますが、偶然の出会いが1人の運命をここまで変えるということがある、というのは本当に驚きです。事実は小説より奇なりとは言いますが、本当にそんな感じですね!
昭和の文豪の話がたくさん出てくるので、好きな人にはたまらない本になってます。興味がある人は、絶対読んだほうがいい1冊です。
太宰治との出会いから始まる人生の変化の物語もすごいのですが、戦後すぐの日本がどんなだったのか?についても、かなり詳しく書かれています。戦時中の学徒動員で工場で働いたことや、疎開先で松根油堀りをさせれたこと、東京では強制転移が当たりまえだったことなど、今では想像もつかないことばかりで、個人的にはそれも驚かされましたか!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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